「ヒップホップの売上がロックを超えた」 売上データから読み解くU.Sシーン(前編)

調査会社Nielsenが2017年上半期のアメリカにおける音楽の売上データに関するレポートを発表しました。
その中で、「ヒップホップが、同調査を開始して20年で初めてロックの売上を超え、最も売れたジャンルとなった」という発表が界隈を賑わせています。

FNMNL / アメリカでヒップホップとR&Bの売り上げが史上初めてロックを超える
http://fnmnl.tv/2017/07/19/34117

なぜヒップホップがロックの売上を超えたのか。そして、今のU.Sヒップホップシーンに何が起きているのか。
同レポートの読み解きを通じて考えてみようと思います。

■”売上=儲けた金額”ではない

同レポートにおける集計方法は少々特殊です。
と言うのも、ご存知の通り音楽の消費形態は、単純なフィジカルCDの購入から、iTunesなどでの有料ダウンロード、Spotifyなどストリーミングサービスでの再生と多岐に渡るのが今日の状況となっています。

そのため、同レポートでは「アルバム1枚分」を売上の単位として、

・フィジカルのアルバム、有料ダウンロード(アルバム):1枚=1
・有料ダウンロード(曲単位):10曲=1
・ストリーミングサービス:1,500再生=1

という割り振りで集計を行っています。
本記事では割り切って、この単位を「売上」と呼ぶこととします。

■急拡大するストリーミング消費

まずは全体感を掴むために、本レポートの集計データ全体で、どのような形で音楽が消費されているのかを見てみようと思います。
下記に、2016年,2017年の消費形態ごとの売上をアルバム1枚分の単位に丸めたものと、昨対比成長率を一覧化しました。

売上のトップは、「音楽ストリーミング」(122.9百万)が断トツ。それに「動画ストリーミング」(66.9百万)、「フィジカルのアルバム」(46.9百万)、「有料ダウンロードのアルバム」(35.1百万)が続いています。
実際に再生数がアーティストの収益にどれくらいの額結びついているかは不明な部分もありますが、本レポートにおいてはストリーミング1強と言っても過言ではないでしょう。
成長率も特に「音楽ストリーミング」において群を抜いています。一方で、販売については軒並み20%前後減少しており、米国におけるストリーミングサービスへのシフトが顕著に見受けられます。

■ストリーミングサービスと相性の良いヒップホップ

では、音楽ジャンル別にどの消費形態でどの程度の売上シェアを獲得しているかを見てみましょう。

その前に、まずは音楽ジャンル別の全体売上シェアの確認です。

2017年のTOP3は「R&B/ヒップホップ」(25.2%)、「ロック」(23.0%)、「ポップス」(13.4%)となっています。
この3ジャンルについて、消費形態別のシェア、2016年からのシェアの変化を見てみましょう。

ヒップホップは全体売上で昨対比+2.5%。-3.4%と大幅な下落となったロックを抜いてトップの座に躍り出ました。ロックは、全体的に減少をしており、中でも「音楽ストリーミング」におけるシェアの低下が顕著となっています。

ヒップホップを消費形態別に見ると、「ストリーミングサービス」では、シェアにおいて2位以下のジャンルに10%以上の差を付け、昨対比成長率も目立っています。
一方で、販売シェアについてはロックの半分にも及ばず、シェアも軒並み低下。他ジャンルと比較しても、「ストリーミングで聴く音楽」としてヒップホップが特徴付けられていることが浮き彫りになったと言えるでしょう。

ここまでを見ていると、「ストリーミングという音楽消費形態の異様な拡大」、そして「ストリーミングサービスとヒップホップの親和性」の2つが、今回のヒップホップのジャンル別シェア1位という結果を支えていることが分かります。それでは、実際この結果はどのようなアーティストに支えられているのか、後編で読み解いていこうと思います。

(KANEKO THE FULLTIME)