「本物のラッパーの人に絶対にバレないようにやっていた」”群馬の暴れ馬” NAOMY ロングインタビュー(前編)

昨今のMCバトル、ラップブームで、年齢を重ねてから初めてマイクを握った……という人も増えてきています。ラップに限らず、新しいことを始めるのは勇気がいるものですが、2011年、38歳にしてステージに立った女性MCがいました。それがNAOMYさん。B-BOYだらけの当時のMCバトルで、異色の存在でありながら、確実に多くの人の記憶に残るバトルを繰り広げていたNAOMYさんにお話を伺いました。

「やっぱりやっておけばよかった」という後悔を少なくしたかった

Yasco.
……あの、NAOMYさんのバトルを初めて見たときに、「この人は絶対に、ラップを始めるまで、何もしてこなかった人じゃないな」と思っていて……ラップで人前に出られる前に、どういったご活動をされていたのか、お伺いしてもいいでしょうか?

NAOMY
大学に入ってから、演劇をやっていたんですよ。サークルの先輩たちに誘われて、ベターポーヅという劇団に入っていました。Yasco.さんもお芝居やってますよね?

Yasco.
そうなんですね!演劇、私もやってます。……ああ、すごく納得感がありました(笑)それでは就職はせずに、演劇一本でやられていたんですか?

NAOMY
実は私、大学を出てからマルイに就職したんですよ。でもラップだと、夜や週末だけイベントがある、というケースが多いけど、演劇だと稽古が毎日あるから両立が難しくて、仕事はあまり続けられませんでした。演劇活動は、その劇団で10数年やってましたね。

Yasco.
割とMCバトルがブームになっている今だからこそ、例えば我々サラリーマンとか、アイドルの人だったりとかもMCバトルに参加している現状があると思うんですが、NAOMYさんが出場されたきっかけって何だったんでしょうか?

NAOMY
きっかけは色々あったと思うんですけど…最初にバトルに出たのは38歳くらいの時だったんですよ。
女性って、30歳前に、やっぱりちょっと焦ったりするじゃない?そしてもちろん40歳になる時も、「もう直ぐ40歳だ、どうしよう」っていうのがあったんですよね。私その頃、婚活をすごいしてたんです(笑)私は出身が群馬で地方なので、親も「結婚しなさい!」ってずっと言ってきて……父親に家の裏に呼び出されて、「お前はどうするつもりなんだ」とか怒られたりして。自分が結婚したいから、というよりも、「もう怒られたくないから、結婚したい」みたいな感じでした。

演劇でもそんなに売れたり、たいした結果を出せたという感じでもなくて、達成感がなかったんですよね。今でこそ、有名にはなれなかったけれど得るものがあったな、とは思うものの、やっぱり焦りはありました。

だから、MCバトルには、うまくいかないことに対するフラストレーションをぶつけてただけっていうか(笑)思い返すと、バトルで相手の方をdisるというよりも、婚活がうまくいかない、もうババアになってきちゃった……とかいう不平不満を言ってたっていう感じです(笑)。
有名な方とかは、やっぱり悪そうなこととかを言いますけど、私は身近な自分の話をしているだけで(笑)演劇とかだと、セリフを与えられて話す、っていうのがベースにありますし、そういう気持ちのはけ口だったのかな……と思いますね。

あと、40歳を目の前にすると、「人生折り返しだな」っていう感じがすごくして……よく「死ぬ前にやりたい●個のこと」みたいなの、本や映画でもありますけど、「やっぱりあれをやっておけばよかったな」っていう後悔をなるべく少なくしたいなっていうのを切実に思ったんですよね。

でも、やっぱりバトルに出るのは怖いな、と思っていて。例えばUMBに出るのは到底無理だろうな、と思っていたんですよ。色々バトルイベントを見にいく中で、戦慄(戦慄MCバトル)が比較的、変わった出自の人や面白い人も出ていて、これなら大丈夫なんじゃないかなっていうのを確認して、出場したって感じですね。

Yasco.
バトルは結構見られてたんですか?

NAOMY
そうですね。当時は、バトルはもちろん、ラッパーとしても女性ってすごく少なかったんですよ。私がバトルを見始めるちょっと前にCOMA-CHIさんがメジャーデビューをして、「女が来た!」って(笑)。ラップって男の人中心だと思っていたから、すごくびっくりしたんです。「一体この人はどういう経緯で活躍しているんだろう」と思ってプロフィールとかを調べていたら、どうやらバトルとかに出ていたらしい、ということを知って、UMBとかのバトル現場にも足を運び出しました。

Yasco.
ご自身でも、ラップはその頃からやられてたんですか?

NAOMY
演劇の枠の中で、ちょっとラップを取り入れた面白いパフォーマンスとかはしていたんですけど……私がラップをして、相方の男の子が演歌を歌う、みたいな。それで少しラップ的なことをしていたから、もっとやりたくなった、というのもあるかもしれないですね。
ただ、私、さんぴんキャンプの教えというか、「ギャグラップは一掃しよう」みたいなことを聞いてきたから、面白くラップをやったり、はたまた女の人がラップしたりすると、怖い人に怒られるんじゃないか、っていうのがずっとあったんです。だからCOMA-CHIさんが出てきた時に「あ、ラップしてもいいんだ」っていう風に思った、というのもありますね。私は本物のラッパーの人に絶対にバレないように、自分のカテゴリーの周辺でやっていたっていう感じだったんですよ。

Yasco.さんって、お芝居の稽古とか行くと、他の人に格好とかで突っ込まれたりしないですか?

Yasco.
演劇って、見た目が派手な人が少ないので、例えばダボダボのジャージに短いシャツ、とかで行くと、「あいつやべえ」みたいな空気になります(笑)

NAOMY
そうそう、それこそB系の格好の人っていないじゃない? 当時だと、へそを出すのがすごい流行っていて、へそ出しで稽古場に行くと「何やってるんすか!」って引かれたりして。あと、昔だと、知られていない分、「ラップやってるとか、ウケる」「disったりするんでしょ?」みたいな、からかわれるようなこともあって。ともかく、服装は演劇の人たちにかなり笑われてきましたね。まあ「ウケたからよかった」みたいな面もあったんだけど(笑)
だから結構109とかで服を買ってたんだけど、その時点で20代後半〜30代前半だったので、「痛いヤツ」にならないように結構調整してたんです……やっぱりね、生足は不利です(笑)

Yasco.
それは結構胸に響きますね……(笑)

NAOMY
でも変な話、今2年前の写真とかを見ると、「あ、若いな」って思うんですよ。その時点では「劣化しててやばい」って思っていても、今が今後の自分の中で一番若いわけじゃない? だから、20代のうちは気にしなくて全然大丈夫(笑)
あ、でもね、今後の役に立つかわからないけど、肘や膝は年齢が出るから、そういうところから工夫していくのがいいと思います(笑)

Yasco.
(爆笑)

YOU THE ROCK★さんのストレートな熱さに、ガツンとやられた

Yasco.
ラップは結構前から聴かれていたんですか?

NAOMY
そうですね、大学生の頃くらいから聴いてました。でも自分は、絶対に音楽はできないなと思っていたんです。恥ずかしながら私すっごい音痴なんですよ。劇団でそれこそラップとか、スピードや安室ちゃんの完コピをする…みたいなパフォーマンスをやったりしていた時も、私が音痴すぎて、それで笑いをめちゃめちゃ取ってたんですよ。だから音楽を聴くのは好きだけど、自分でやる人間じゃないってずっと思っていたんですけどね……(笑)
演劇の枠の中でラップをする時も、お客さんはHIP HOPを聴きに来ているわけじゃないから、内容で笑えるように工夫したり。MCバトルってある種、大喜利的な部分もあるかと思うので、その辺りはバトルにもつながっていたかもしれません。

Yasco.
HIP HOPにはどこから入られたんですか?

NAOMY
ちょうど大学生くらいの時に渋谷系の音楽がすごく流行って、スチャダラとか、かせきさいだぁ、TOKYO No.1 SOUL SETとかは、渋谷系の枠の中で聴いていました。その時、渋谷系カルチャーを紹介するコラムを、ライターの川勝正幸さんという方が書いていて、その人の勧めるものは間違いない、と言われていたんですよ。ある時そのコラムで、ECDさんが紹介されていて、それを聴いたのが入り口ですかね。ECDさんと一緒にYOU THE ROCK★さんとかKダブさんがやっていて、そこから雷やNITROとかに広がっていった、という感じです。
私はお芝居をやっていた時、笑いだったり、少し斜めな視点から見たものや、ナンセンスなもの、静かなものが好きで、そういう世界にどっぷり浸かっていたから、YOU THE ROCK★さんのようなストレートな熱さに久しぶりに触れて、ガツンとやられてしまいました(笑)

あとはもともと、渋谷系の流れで電気グルーヴとかのテクノ系はよく聴いていて、クラブイベントにはよく行ってたんですよ。だからイベントに行く抵抗はあまりなかったかな。

Yasco.
演劇界隈だと、音楽聴いている人って意外と少ないですよね。クラブに行くっていうと引かれてしまうこともたまにあります。

NAOMY
「クラブって灰皿に酒入れて飲まされる怖いところでしょ?」とか言われたりね。でも実際に怖い思いしたことってそんなに無くないですか?
私クラブに行く友達がいなくて、ずっと一人でイベントに行ってたんですよ(笑)周りより少し自分の方が年齢も高いし、その上私お酒が飲めないんです。きちっと音楽を聴いてるから、周りの人もむしろ話しかけてこなくて、たまに声をかけられても「関係者の方ですか?」みたいな感じ。だからバトルに出て、友達が増えたことがすごい驚きでした。ずっと一人でクラブ行ってたのはなんだったんだ、友達できるじゃん!って(笑)

ただ、当時はデイイベントってほとんどなかったので、YOU THE ROCK★がやばい、生で見たい、となったら夜中のクラブチッタに行くしかなかったんですよ。初めてチッタに行った時は本当に怖かったな。一人で来てるってバレたらカツアゲされるんじゃないかと思って、比較的派手じゃない女性の集団にくっついてました。でもバトルの時に、実際に見た目の怖い人たちと話してみたら、全然危なくなくて、それもまたびっくりしましたね。見た目がちゃんとしていても失礼な態度をとってくる人なんてたくさんいるけど、みんなとてもいい人たちで。

Yasco.
見た目が怖い人と話すことが私も増えて、怖い人ほど実は優しくて、中身はピュアなのかな、と思うこともあります。

NAOMY
多分、私はカタギだし(笑)、ストリートで悪いことするって感じじゃないのは見ればわかるから、そういうことに誘われたりもしなかったな。

Yasco.
そういうイベントにはやっぱり、ヘソ出しとかで行く感じでしたか?

NAOMY
うん、でも板についてるギャルの子たちって、布の量が違うじゃない(笑)だから、もっとクラブ向きのファッションをしたいと思いつつも、演劇の現場に行くと「何なのその服」って言われるし……

Yasco.
結構ギャップがありますよね。

NAOMY
私は一体何なんだろう……ってずっと思ってた(笑)

Yasco.
でもNAOMYさんがB系だった、っていうの少し意外でした。バトルに出られた時はあまりそういう服装じゃなかったですよね。ちなみに、109のどんなブランドで服買ってたんですか?

NAOMY
LB-03とかかな…わざとヘソが出るように折ったりして。今は抑えてますけど、そういうファッションも気にはなりますね。
バトルに出てきた時は38歳だったから、さすがにそういう格好で行くと……ちょっと痛いですよね(笑)本当にベテランで板についている人だったらいいですけど。今は義理の両親とかにも会うし、ママ友的な人にも会うから、そこで悪目立ちする勇気はないかな……でもね、本当は私、スリチクさんみたいな格好したいんですよ(笑)

スリチク(S7ICKCHICKs) 引用:https://twitter.com/hashtag/%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%81%E3%82%AF

(聞き手:KANEKO THE FULLTIME, Yasco. 構成・文:Yasco.)

▼NAOMY 次回作 EP「JS 自称主婦(仮)」 2017年リリース予定

フリースタイルバトルブーム前夜、独身アラフォー女性をレペゼンしMCバトルに参戦、独自のスタイルで異彩を放っていたが、2014年に結婚、2015年には出産。激動の変化を迎える。家事と育児に追われる日々の中で感じた喜び、不安、葛藤、そして、、、愚痴。高齢母にのしかかる育児負担を愚痴りぬいた「肩が凝る」、理想の主婦像という無言の圧力の脅威を描いた「Shufu」、SNSでこれでもかと振りまかれるママタレ・セレブと己との違いに震えた「よそはよそ うちはうち」、愚痴の果てに辿り着いた母としての決意を宣言した「母さんはアタシ」等、ハーコーな主婦の暮らしを哀愁とユーモアを散りばめリアルに描き出した本作。全ての主婦と、全てのハーコーライフを生き抜く人々に捧げる、ぼやきスタイルエンターテインメント。これが主婦のリアルライフ。