「差別はいらない、キャベツはお野菜」パンティーラップ界の最重要クルー・西新宿パンティーズインタビュー(前半)

HIP HOPは男性社会……と言われますが、今や女性だけのMCバトルが開かれるように、男性だけのものではなくなっています。それだけでなく、セクシャルマイノリティを含めたクルーとして注目を集めているのが「西新宿パンティーズ」(西パン)です。
「Zuluの教えに忠実にパンティー被りを広めている」という彼らは、下ネタライムとHIP HOPからのサンプリングを織り交ぜた楽曲が特徴的。筆者も「俺たち新宿肉便器集団、俺が舐めるのはポリスとクリトリスだけだ、西新宿はアナルな歌しか歌わねぇ」という突拍子もないMCに完全に心を奪われました。その西パンが、9/20に新作EP「珍宝EP」をリリース、それに先駆けて新曲「君に壁ドン part-2」のMVが公開されました。普段はパンティーを被って顔を隠したパフォーマンスをする彼らの素顔にせまるべく、MCくんに君さんとあでぃぽいさんにお話を伺いました。

パンティー被りのきっかけはMSCだった

–私が西パンを初めて知ったのはオネエスタイルダンジョン(二丁目で開催されているドラァグクイーンとのラップバトルイベント)だったんですが、そもそもどういう経緯でこのメンバーが集まったのかをお聞かせいただけますか?

くんに君:実はもうライブには出ていないんですが、西パンのリーダーの「パンティー師匠」という男がいるんですよ。山が好きな人で、今はもう山にこもっちゃってるんですけど(笑)

あでぃぽい:僕最後に会ったの、もう2年前ですね。

くんに君:僕とパンティー師匠とMCコットンさんの3人で、3.11の震災があった後に、東電や政治家にメッセージを出したい、と思って集まったのがきっかけでした。僕は30歳くらいだったんですが、夜な夜な西新宿に集まって、リリックを書こうと腐心してたんです。でもそれがなかなかうまくいかなくて、ただ毎日飲み会をしているだけの状態になってしまって(笑)
3ヶ月くらい経った時に、「もう、パンティーについて書いてみようぜ」となったら、みんなスラスラリリックが出てきて、その日中に1曲できたんですよ(笑)

–(笑)なんでパンティーについて書いてみることになったんですか?

くんに君:僕たちはずっとMSCが好きだったんですけど、彼らって目出し帽を被ってるイメージがあるじゃないですか。「あれがパンティーだったらかっこいいよな」なんて話をしていたのがきっかけですね。

MCくんに君さん

–なるほど(笑)それでパンティーを被るスタイルになったんですね!

くんに君:そう。1曲作れた時に、その勢いでパンティーについてのリリックを書きまくったんですよね。そしたら4・5曲出来上がりました(笑)
実は未だにその時の曲もライブでやってるんですよ。「僕らがパンティー被る理由」っていう曲(笑)今まで配信はしていなかったんですが、次のEPに収録される予定です。

当時、MCコットンさんが西新宿でバーをやっていて、僕らもその店の常連だったんです。バタ子さん(Snoopバタ子)とバクテリアさん(DJバクテリア・シークレット)はそこの店員。彼らも参加してくれることになり、2012年の8月、いざ出来上がった曲でライブをやってみたらバカウケで……
バタ子さんが音楽関連の人ともつながりが多かったのもあって、初ライブの後、色々なところからオファーをいただくようになりました。その時、二丁目のArcHっていうクラブのイベントで出会ったのがあでぃぽいです。

あでぃぽいさん

あでぃぽい:そこで仲良くなった後に、「僕も1バースだけやらせてください」って言ったんですよね。

くんに君:そうそう。そこであでぃぽいにも加入してもらい、今のメンバー構成になりました。

あでぃぽい:今の一連の流れに尺八さん(サックス奏者)が出てきてないですよ(笑)

くんに君:(笑)尺八さんも、出会いは西新宿のバーですね。当時僕とパンティー師匠は、よく高円寺にも遊びに行っていたんですが、尺八さんが高円寺に住んでいたので、ある時呼び出して一緒に飲んだんです。そしたら彼、「サックスを5年間くらいずっと練習しているんだけど、一度も人前で吹いたことがない」っていうんですよ(笑)絶対めちゃめちゃ上手いんだろうな、と思って、彼も最初のライブに誘いました。だから「僕らがパンティー被る理由」にも尺八さんパートがあるんです。

20歳を過ぎて結成する音楽グループって、音楽の趣味が合うやつ同士だったり、周りでイケてるやつとかに声をかけて作るじゃないですか。でも僕たちは、当時の西新宿にいた飲み友達同士で自然と集まったようなグループ。ゆえにスキルにムラがあるんですが(笑)、「音楽性の違いで解散」なんてことは絶対にないですね。

–あでぃぽいさんは、西パンに加入されるまでは別のところで音楽活動をされていたんですか?

あでぃぽい:そうですね、僕は二丁目で開催されていた「日本語ラップナイト」っていうイベントに参加していたんですが、そのつながりで西パンの噂を聞いて。実際に加入したのは2013年頃かな。

くんに君:その頃にはもうパンティー師匠は山にこもりがちになっていたし、コットンさんも自分のやっているカレー屋さんが軌道に乗ってきたので、もうパンティーを被って人前に出てくれなくなって(笑)

あでぃぽい:お店で「コットンさん」って呼ぶと怒りますからね(笑)

くんに君:もう黒歴史ですよ(笑)でもやっぱり、今でもレコーディングの時に、あでぃぽいが「師匠呼びましょうよ!」と言ったりするくらい、パンティー師匠はカリスマ性のある被りストでしたね。

あでぃぽい:当時のリリックに、「こんな被り方してる38歳!」っていうのがあったんですけど、ライブのたびに百発百中で大ウケしてて…今は42歳か…今やるとドン引きかもしれないですね(笑)

くんに君:昔田我流さんがライブを見てくれる機会があったんですが、師匠の「38歳!」で田我流さんがめっちゃウケてくれて、ブログにも書いてくれたんですよ。それくらい当時、おっさんがパンツを被ってラップをしてるのは衝撃だったんですよね。

あでぃぽい:本当に師匠は…存在がイルですよね(笑)

くんに君:前に一緒に神社にお参りに行った時に、師匠がお祈りし始めたんですけど、お賽銭を投げないんですよ(笑)お賽銭もあげずに一生懸命お祈りしてる人、俺初めて見た(笑)山にこもりすぎて、都会で生きるルールを忘れてしまったようです。

あでぃぽい:ライブする時に「電車賃がない」って言われて、くんにさんが家まで電車賃を渡しに行ってましたよね(笑)

くんに君:それでいて、200万円とかする山用の道具買ったりするんですよね。一生結婚できないと思う。
昔合コンをした時に、石原さとみみたいな可愛い女の子が師匠のことを気に入ったみたいで、猛アタックしてきたんですよ。だから僕が番号を交換して、また飲み会をセッティングしてあげたんですよね。そこで4時間くらい飲んだのに、師匠はその子の名前すら聞いてなかったんですよ……女性に興味なかったのかな……昔一緒にピンサロに行った時も女の子に「勃たないね〜」とか言われてたし(笑)

あでぃぽい:こんなにホモがいるクルーなのに、頑なに隠してたんですかね(笑)

くんに君:言えばいいのに(笑)

他愛のない下ネタから生まれた、「君に壁ドン part-2」

–皆さんは普段どういったお仕事をされてるんですか?

くんに君:バタ子さんは飲食業ですね。今はアマラスカフェで働いているけど、その前働いてたあじさいっていうバーもすごい楽しいところでしたね。

Snoopバタ子さん

あでぃぽい:看板がなくて、なぜかドアに錠前がついてるんですよ。暗証番号を入れないと入れないっていう(笑)

くんに君:絶対悪いことしてるだろっていうね(笑)バクテリアさんも同じようにクラブとかで働いていて、尺八さんはずっと映像の仕事をしていたんだけど、今はコットンさんのお店で働いています。僕とあでぃぽいとパンティー師匠は、スーツを着ている、いわゆるサラリーマンですね。実はあでぃぽいとは、仕事上でも若干の絡みがあります(笑)

あでぃぽい:くんにさんが職場の同僚の名前を出してくると、ヒヤッとしますね(笑)

くんに君:僕は割と人数の多い会社で働いているんですけど、サラリーマンの中でも、僕ほど仕事をしてない人を見たことないんですよ。大企業ってゴミみたいな社員が何人かいたりするものなんですけど、僕はそのひとりですね。8月、人にメール出したの2回くらいしかないもん(笑)

–(笑)

くんに君:20代の頃は真面目に働いていたんですけど、会社を辞めようと思った時期に、家から会社までずっとタクシーで通勤してたんです。それを経費で清算していたら、なぜか上司もそれを全部承認するんですよ(笑)1年間くらいタクシー通勤を繰り返したら、その経費が200万円くらいになったんですけど、それが会社で大問題になって(笑)
その時の経営会議の資料、人事部に呼び出された時に隙をみて写真撮って、今でも持ってますよ。ほら、「安易なタクシー利用:経費削減が叫ばれる中、突出したタクシー利用者がいました」って(笑)

あでぃぽい:なめすぎじゃないですか(笑)懲罰はなかったんですか?

くんに君:それは上司が承認しちゃったから(笑)その時の上司もアル中みたいな人で、来たもの全部承認するんですよ。上司も経費が積もった結果を見てびびったと思いますね。
その結果、とてつもない窓際部署に飛ばされたので、今では職場でリリックを書いたりしてますね。鼻くそほじりながら。それに、僕昼間のLINEの返信がめちゃくちゃ早いんですよ(笑)

あでぃぽい:でも昼間のLINEの返信は敬語ですよね(笑)

くんに君:一応会社だからね(笑)俺の仕事は営業支援なんだけど、扱ってるのが「レガシー」って呼ばれているくらい売れない商品だから本当に仕事がないんですよね。子育てもできるし、今日本で一番恵まれているサラリーマンですよ。

誰だって、スーツなんか着ないで稼ぎたい、サラリーマンはダサいって思ってますけど、ラップ一本で食えているラッパーも数えるほどですし、表に出していないだけで音楽をやってるサラリーマンも多いわけじゃないですか。
そういう意味では僕、植木等が歌う世界は最高にイケてると思うんですよ。「ドント節」とか、「二日酔いでも寝ぼけていても/タイムレコーダーガチャンと押せば/どうにか格好がつくものさ」みたいな、超適当に働いている歌を歌っていて。彼こそがレペゼンサラリーマンだと思いますし、だから僕もとことん仕事をしないスタイルを貫いていきたいです(笑)

あでぃぽい:「苦労しているアピール」みたいなのは別に聞きたくないですからね(笑)くんにさん、昔名刺の肩書きも変でしたよね?

くんに君:僕の部署はほとんど仕事もないので、名刺の肩書きを好きにいじっても誰にも突っ込まれないんですよ。僕らは西新宿パンティーズ、略してNSPって言ってるんですけど、「NSP推進部」っていう肩書きを作って名刺を発注してました(笑)もうオフホワイト企業ですよ。でもこの地位は自分で勝ち取ったんで、このまま鼻くそほじりながら定年までいきたいですね。

–(笑)普段皆さんはどういうお話をされるんですか?

くんに君:皆でいる時は、全然音楽の話はしないですね。他愛のない話ばかり。でも一緒にいるメンバーによっても変わるかな。尺八さんとバタ子さんだと、痴話喧嘩みたいなことをやってます。尺八さんがバタ子さんのことをすごくdisるくせに、しょっちゅうお店に飲みにくるっていう(笑)僕とあでぃぽいだと、意外と音楽や仕事の話もしてるかも。
昔西新宿のバーで飲んでいた時って、毎晩下ネタの話ばかりしていて、根底では皆下ネタが大好きなんだと思うんですよね。二言目には「ちんぽ、まんこ」みたいな感じ。そのあたりは共通項です。「いつもお世話になっておりまんこ!」みたいな。

1週間前に、僕とあでぃぽいとバタ子さんで飲んでいて、その時オナニーの話で盛り上がったんです。僕はオナニーする時に、おっぱいとか、女性の体を思い浮かべますけど、バタ子さんはちんこのこととかを考えるわけじゃないですか。その時に、気を使うわけではないけど、意識する部分っていうのはやっぱりあって。

ずっと一緒にクルーとしてやっていると、セクシャリティに対して考えるところはあると思うんですよね。マイノリティの人たちはマイノリティの人だけでつるみがちですが、ゲイだけ、ノンケだけ、というのではなくて、僕たちは一緒につるんでいる。そういうセクシャリティも出自もバラバラな僕たちだからこそ、普段の他愛のない下ネタから、最終的に「君に壁ドン part-2」みたいなアウトプットが出てきたんじゃないかな、と思います。

-セクシャリティの話になりますが、西パンはゲイとノンケのメンバーが同じクルーで活動されていますよね。今でこそ、フランク・オーシャンがゲイであることをカミングアウトしたり、JAY-Zの母親がバイセクシャルであることを公言したりしていますが、やはり以前はキングギドラが「ドライブバイ」でゲイの方を揶揄したような例もあり、HIP HOPはセクシャルマイノリティを弾くような風潮があったように思います。

くんに君:今の時代の日本で、いわゆる”バディマンソング”みたいなものは減っているんじゃないでしょうか。昔そういう曲をやっていた人たちは、海外の文化や曲をそのまま和訳してコピーしてやっていただけで、日本に文化としてHIP HOPが根付いて独自に成熟していっているなら、自然とそんなトピックは選ばないだろうと。

あでぃぽい:ちょうど数日前、磯部涼さんとKダブシャインさんがTwitterで言い合いをしていて、磯部さんが「昔の『ドライブバイ』とか『FFB』のような、マイノリティや女性を蔑視している曲について、どう思ってるんですか?」っていうメンションをしていたんですが、それに対して、Kダブさんは何も返答できていないんですよね。

くんに君:HIP HOPの中でも、オープンな人やリベラルな思想の人たちは受け入れてくれていますね。

あでぃぽい:だって、他人のセクシャリティを否定する理由がわからないですからね。自分と関係のない人たちが、どういう考えを持っていたって自由なわけじゃないですか。迷惑を被っているわけでもないし。

くんに君:僕らはTRP(東京レインボープライド。LGBTが差別や偏見にさらされず、前向きに生活できる社会を目指し開催されているイベント)で、差別反対を呼びかけるパレードに参加させていただいたりもしているんですが、そもそもHIP HOP自体、Public Enemyが黒人差別に声をあげていたように、差別に対する抵抗の歴史があるじゃないですか。
そういった意味だと、僕たちは日本で差別に関して当事者として声をあげられる数少ないグループかもしれません。パンティー被りながら僕たちがガンガン言っていきましょうか(笑)TRPでは「差別はいらない、キャベツはお野菜」とひたすらコールしていただけでしたが(笑)

(聞き手:Yasco. 構成:KANEKO THE FULLTIME 文:Yasco.)

▼西新宿パンティーズ 次回作 EP「珍宝EP」 2017年9月20日リリース予定

Yasco.
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渋家株式会社取締役。総務、会計、ライター。「UMB予選×Businessman Rap Tournament」ベスト4、第1回シンデレラMCバトル出場などの戦績を持つ。